「伝来」と「栽培化」は別の問い
作物の来歴はふつう「いつ外から入ったか」で語られるが、ダイズでは列島にあった野生種ツルマメから種子が大型化していく過程そのものが研究の主題になっている。中部日本では縄文時代早期中葉からダイズ属種子が存在し、中期以降に栽培型が顕在化するとされる。渡来年代を一点で答えるのではなく、栽培化がどこまで進んだかを段階で捉える見方になっている。
- 中山誠二「縄文時代のダイズの栽培化と種子の形態分化」植生史研究23巻2号(2015年)公開情報の最終確認 2026.08.01
COMMON CROP / SOYBEAN
縄文土器の圧痕が、列島の内側での栽培化をたどらせる作物。
01 / ARRIVAL
年代の確からしさは、遺跡の出土によるものと、文献に記されたものとで違います。どちらの根拠なのかを区別して記録します。
土器の器面に残る種子の跡(圧痕)をシリコーンで型取りするレプリカ法により、縄文時代のマメの栽培化が指摘されるようになった。中山誠二の研究では、中部日本において縄文時代早期中葉(紀元前8千年紀後半)から存在するダイズ属の種子が縄文時代を通じて大型化し、特に紀元前4千年紀後半の縄文時代中期以降に栽培型ダイズの種子が顕在化することが示されている。2024年には、東京都府中市の清水が丘遺跡から出土した縄文中期の勝坂式土器の装飾が、栽培サイズのダイズ属種子を押し付けて埋め込む手法で意図的に付けられたものだと報告された。ダイズについては「大陸から伝来した」だけでは説明しきれず、列島の内側で野生種から栽培化が進んだ過程が主題になっている。
02 / LINEAGE
各地の農業試験場が地域ごとに主力品種を育ててきたため、系譜は一本の流れにならない。長野のエンレイ、九州のフクユタカ、東北のスズユタカ、長野のタチナガハがそれぞれ独立して生まれ、後にそれらを掛け合わせたサチユタカへ合流した。近年は、莢がはじけにくい性質をもつハヤヒカリを繰り返し戻し交配して既存の主力品種に加えた「A1号」の系列が続いている。なお、公開されている一次資料には、これら基幹品種そのものの交配組合せの記載が見当たらない。ここでさかのぼれるのは、記載が確認できた範囲までである。
長野県農試桔梗ヶ原分場で育成されたと記される。旧系統名は東山57号。北陸地方に適した早生から中生の多収品種で、耐倒伏性に優れ、子実中の蛋白質含有率が高く豆腐加工適性に優れるとされる。交配組合せは公開資料で確認できていない。
昭和46年5月に命名登録(だいず農林57号)
この先 サチユタカ・ハタユタカ へ合流する
九州農業試験場で育成されたと記される。旧系統名は九州86号。広域適応性のある良質多収品種で、草姿が良く倒伏にも強いため密植栽培にも適応できるとされる。交配組合せは公開資料で確認できていない。
昭和55年6月に命名登録(だいず農林73号)
この先 サチユタカ・フクユタカA1号 へ合流する
東北農業試験場で育成されたと記される。旧系統名は東北65号。ダイズモザイクウイルス抵抗性とダイズシストセンチュウ抵抗性をあわせもつ、安定多収で良質の品種と記される。交配組合せは公開資料で確認できていない。
昭和57年6月に命名登録(だいず農林76号)
この先 ハタユタカ へ合流する
長野県中信農業試験場で育成されたと記される。旧系統名は東山135号。後の戻し交配で親として繰り返し使われている。交配組合せは公開資料で確認できていない。
昭和61年6月に命名登録(だいず農林85号)
この先 フクユタカA1号 へ合流する
北海道立十勝農業試験場で育成されたと記される。旧系統名は十育227号。莢がはじけにくい性質の供与親として、後の「A1号」系列に繰り返し使われている。交配組合せは公開資料で確認できていない。
平成10年8月に命名登録(だいず農林108号)
この先 サチユタカA1号・フクユタカA1号 へ合流する
親フクユタカ × エンレイ
交配組合せは「フクユタカ/エンレイ//エンレイ」。九州農業試験場で1987年に人工交配され、そのF2世代へ再びエンレイを交配して育成されたと記される。子実粗蛋白含有率が高く、豆腐加工適性が優れるとされる。旧系統名は九州131号。
平成13年10月に命名登録(ダイズ農林116号)
この先 サチユタカA1号 へ合流する
親スズユタカ × エンレイ
交配組合せは「スズユタカ × エンレイ」。旧系統名は東北128号。東北のスズユタカと北陸のエンレイという、育成地の異なる主力品種どうしを掛け合わせたものにあたる。
2002年9月30日に品種登録(登録番号10623)
交配組合せは「東北96号 x デワムスメ」。東北農業研究センターで育成されたと記される。旧系統名は東北126号。莢がはじけにくい性質をもち、フクユタカA1号の親のひとつになっている。
平成14年9月に命名登録(だいず農林122号)
親サチユタカ × ハヤヒカリ
交配組合せは「サチユタカ6/ハヤヒカリ」。数字の6は、サチユタカへハヤヒカリを掛けたのち、サチユタカへ繰り返し戻し交配した回数を表す原典の表記である。旧系統名は関東114号。
2014年10月27日に品種登録(登録番号23741)
親フクユタカ × ふくいぶき × タチナガハ × ハヤヒカリ
交配組合せは「フクユタカ6///ふくいぶき//タチナガハ/ハヤヒカリ」。ふくいぶき・タチナガハ・ハヤヒカリを組み合わせたものへ、フクユタカを6回戻し交配したことを表す。旧系統名は関東120号。四つの品種が一点に集まる、この図でもっとも多くの親をもつ節にあたる。
2018年10月10日に品種登録(登録番号27051)
03 / NOTES
統計上の定義や用途の区分など、数字を読むときに前提になる事柄を残します。
作物の来歴はふつう「いつ外から入ったか」で語られるが、ダイズでは列島にあった野生種ツルマメから種子が大型化していく過程そのものが研究の主題になっている。中部日本では縄文時代早期中葉からダイズ属種子が存在し、中期以降に栽培型が顕在化するとされる。渡来年代を一点で答えるのではなく、栽培化がどこまで進んだかを段階で捉える見方になっている。
大豆の品種解説では、蛋白質含量の高さが「豆腐に適する」という評価に直結し、そのうえで煮豆や味噌の加工適性が併記される。「里のほほえみ」も蛋白質含量が「エンレイ」並に高く豆腐に適し、煮豆・味噌の加工適性も良好とされる。同じ大豆でも、どの加工に回すかによって求める成分が変わる。
品種データベースの記載には成分や収量だけでなく「栽培適地」の欄がある。「里のほほえみ」の栽培適地は東北南部等とされ、成熟期も比較品種との相対で示される。品種を全国一律の性能で比べることはできず、どの地域の気候を前提に育成されたかが前提条件として付いてくる。
04 / EXPLORE
この作物の収穫量の推移は統計の索引に、土地に根ざした品種は在来の台帳にあります。